税金対策

【税理士が解説】マイクロ法人のメリットは?マイクロ法人を導入するにあたり検討すべき事項について解説します。

先日、マイクロ法人の設立のご相談を受けることがありました。
法人設立は、通常、事業規模が大きくなった段階で信用面や資金面、組織化などを目的として会社形態とすることが多いのですが、マイクロ法人とは従業員を雇わない社長一人会社ですので、このような側面よりも節税を目的として設立されることが多いです。
本投稿では、個人事業主がマイクロ法人を設立する場合に検討すべき事項について解説します。

マイクロ法人の収益をどう確保するか

個人事業主がマイクロ法人を設立する場合の一番の課題です。
原則として、個人事業とマイクロ法人は違う事業である必要があり、個人事業の収益をマイクロ法人へ付け替えることは認められません[*1]。
例えば、サラリーマンが副業をマイクロ法人で行う場合や個人事業主が不動産賃貸業をマイクロ法人で行うことは問題ありません。

[*1] 例えば、会社法上の取締役の競業避止義務の問題や税務上もそのような行為は認められません(同族会社の行為又は計算の否認など。)。

所得税の税負担

所得税は累進税率ですので、一定以上の所得については高い税率で課税されます。他方で法人は比例税率ですので、所得が増えても同じ税率[*1]になります。
マイクロ法人は、生活に必要のないお金(所得)を税率の高い個人ではなく、税率の低い法人に貯金しておき、個人と法人のトータルの税負担を減らす対策となります。
なお、法人からお金を取り出す際には所得税が課税されますので、マイクロ法人の設立が直ちに節税となる訳ではなく、お金の取り出し方についても検討する必要があります「有利なお金の取り出し方については、別の投稿で解説します。)。
法人化は、課税所得9,000千円以上(給与収入12,000千円以上、個人事業主は利益10,000千円以上)が目安となります。

[*1]資本金が1億円以下の法人は軽減税率があるため、年400万円以下は約21.5%、年400万円超800万円以下は約23.2%、年800万円超は約34.5%となります。

消費税の納税義務等

個人事業主とマイクロ法人の消費税のステータスは別となります。例えば、課税売上高10,000千円超(税抜)の消費税の納税義務や50,000千円 超(税抜)の簡易課税は、別個の判断となり、合算して判断する必要はありません。

国民年金、国民健康保険税の節税

個人事業主は、国民年金の加入と国民健康保険税が徴収[*1]されますが、マイクロ法人で社会保険に加入した場合、厚生年金と健康保険に切り替わります。
この保険料はマイクロ法人の役員報酬で決まるため[*2]、役員報酬を最低限[*3]に抑えることで、国民年金[*4]や健康保険の減税が可能となります。

[*1] 国民年金は、月16,610円、年間199,320円、国民健康保険税は、の所得等に応じて課税(最高年990,000円)されます(令和3年度)。
[*2] 複数の事業所の役員報酬や給与は合算する必要がありますが、個人事業や不動産賃貸業の所得は含まれません(これらの所得について国民健康保険税が課税されることはありません。)。
[*3] 福岡県の場合、介護保険被保険者は会社負担分を合わせて月額23,075円、年間276,907円 が下限(令和3年度)。
[*4] 配偶者が国民年金加入者の場合、社会保険への加入により第3号被保険者となり、配偶者の保険料の負担がなくなります。

マイクロ法人のメリット

1.キャッシュ、フローの改善[*1]

一定以上の所得の場合、法人の方が税率が低くなるため、キャッシュ・フローが改善します。

2.繰越控除の期間が長い[*1]

個人の損失の繰越期間は3年間であるのに対して、法人の損失の繰越期間は10年認められます。

3.経費の範囲が広い

個人事業では、その事業に直接必要な経費のみが認められるのに対して、法人では、親族に対する給与[*2]や旅費手当等[*3]、新規事業などの事業活動のため費用も経費として認められます(プライベートの支出が認められるわけではありません。)。

4.生命保険金が経費となる

個人の生命保険料では、生命保険料の一部の控除が認められるのに対して、法人では、支払った生命保険料(積立部分を除く)が費用となります。

5.社宅費が費用となる

役員に対する社宅も費用として計上することができます(ただし、役員より費用の一部を社宅料として受領する必要があります。)

6.給与所得控除がある

法人からの役員報酬については、サラリーマンの経費相当を考慮し、給与収入に応じた控除(550千円~1,950千円(令和3年))が認められます。この控除は、実際の支払いがない場合であっても認められます。
なお、給与収入の合計額で控除額が計算されるため、既に給与収入がある場合には、重複して控除される訳ではありません。

[*1] 特に借り入れによる投資を行う場合、税金の支払が返済計画に大きな影響を与えます。
[*2] 個人事業の場合、親族に対する給与相当が認められない訳ではありませんが、従事できる期間の半分以上の従事要件等があります。
[*3] 「出張手当」や「慶弔規定」などの社内規程を作成した場合、社会通念上の範囲内の金額が認められます。

マイクロ法人のデメリット

1.設立費用がかかる

法人の設立のための定款認証(株式会社の場合)やす登録免許税の費用が発生します。 また、設立を専門家に依頼した場合には専門家報酬が発生します。

2.社会保険への加入義務がある

法人を設立した場合、社会保険への加入義務があります。

3.住民税均等割が発生する

赤字であっても住民税均等割が年71千円(福岡市に法人を設立した場合の最低額)が発生します。

4.管理の手間がかかる

議事録の作成や帳簿書類・税務申告書の作成などの管理の手間がかかります。また、その作成等を専門家に依頼した場合には専門家報酬が発生します。

マイクロ法人はメリットと言えるか?

上記の通りマイクロ法人を設立するためには、多くの事項を検討する必要があります。
このように世の中で節税と言われている対策の多くは、メリットの一部を強調したものである事が多く、実際の効果を検証した場合には不利となることもありますのでご留意ください。

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