事業承継

【税理士が解説】事業承継税制の特例は延長されない理由?事業承継税制の誤解と税金対策について解説します。

法人版の事業承継税制の特例措置ですが、次の通りで令和4年度税制改正大綱の基本的な考え方において適用期限をもって終了し、延長しない旨が明記されました。
事業承継税制にはメリットもありますが、数多くのデメリットもありますので、本投稿では、その理由等について解説を行います。

 法人版事業承継税制については、平成30年1月から10年間の特例措置として、令和5年3月末までに特例承継計画の提出がなされた事業承継について抜本的拡充を行ったものである。今般の感染症の影響により計画策定に時間を要する場合もあるため、特例承継計画の提出期限を令和6年3月末まで1年間延長する。この特例措置は、日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上が待ったなしの課題であるために事業承継を集中的に進めるための時限措置としていることを踏まえ、令和9年12月末までの適用期限については今後とも延長を行わない。事業承継を検討している中小企業経営者の方々には、適用期限が到来することを見据え、早期に事業承継に取り組むことを強く期待する。

出典:令和4年税制改正大綱(7頁)

事業承継税制の流れ

事業承継税制とは、自社株式を贈与又は相続等により取得した場合において、その自社株式に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
事業承継税制には、一般措置と特例措置があり、このうち特例措置は、承継株式数に制限がなく、相続税額の全額が猶予・免除の対象となりますが、事業承継を集中的に進めるため、令和9年12月末が適用期限となります。

事業承継税制の特例措置に基づき、相続税が免除されるまでの流れは次の通りとなります。

1.適用要件等の検討

特例の適用要件等の検討を行います。
事業承継税制にはメリットもありますが、数多くのデメリットもあり、検討の結果、事業承継税制を選択しないという判断に至ったケースも少なくはありません。

2.特例承継計画の提出・確認

承継に先立ち「特例承継計画」を記載した確認申請書を都道府県に提出します。
「特例承継計画」が令和6年3月末(上記の改正後)までに提出されていない場合には、この適用を受けることができません。
この「特例承継計画」には、後継予定者や後継者が株式を承継した後5年間の経営計画を記載します。

3.自社株式の承継

令和9年12月末までに経営者から後継者の議決権割合が2/3以上となるように自社株式を一括で承継します。
この承継には、贈与又は相続がありますが、相続を前提とする承継はできませんので、通常は株価対策を行ったうえで後継者に贈与により承継させます。

4.円滑化法の認定

株式の承継後に都道府県による円滑化法の認定を受けます(円滑化法の認定は、事業承継税制の要件とほぼ同じです。)

5.贈与税の申告(翌年3月15日まで)

自社株式について贈与税の申告を行うとともに、贈与税の納税猶予を申請します(免除ではありません。)。
納税猶予には、贈与税と利子税に見合う担保提供が必要です。

6.報告書等の提出(贈与税の納税猶予期間中)

贈与税の申告後5年間は、都道府県庁へ「年次報告書」、 税務署へ「継続届出書」の提出(年1回)が必要です。
5年経過後は、税務署へ「継続届出書」を提出(3年に1回)が必要です。

7.経営者に相続開始

経営者にご相続が発生した場合、自社株式に相続税が課税される代わりに、上記の贈与税が免除されます(自社株式の価額は贈与時の価額で計算。)。
都道府県知事の切替確認を受けることで、相続税の納税猶予を適用できます。

8.報告書等の提出(相続税の納税猶予期間中)

相続税の申告後5年間は、都道府県庁へ「年次報告書」、 税務署へ「継続届出書」の提出が必要です(年1回)。
5年経過後は、税務署へ「継続届出書」を提出が必要です(3年に1回)。

9.後継者に相続開始又は事業承継税制の適用

①.後継者にご相続が発生又は②.事業承継税制により後継者から次世代の後継者に事業を承継した時点で相続税が免除されます。
①.は、次世代の後継者に相続税が課税される代わりに、上記の相続税が免除されます。
②.は、次世代の後継者に贈与税が課税される代わりに相続税が免除されます。この贈与税には納税猶予を適用できます。

事業承継税制の出口は?

相続税の免除は、①.後継者に相続が開始するか、②.事業承継税制により次世代の後継者に承継するまで、自社株式を所有し続ける必要があります(途中で譲渡や贈与した場合、納税猶予の取り消し事由に該当し、その時点で納税+利子税が発生します。)。
後継者が自社株式を後継者が所有し続けることは、その間の対策を全く行うことができないため、次世代の後継者にとって大きな負担となる可能性があります。加えて特例措置は、期限をもって延長されないことが予定されているため、次世代の後継者に承継する際には一般措置となり、特例措置と比べてメリットが縮減していますので事業承継税制の出口の障害となる可能性があります。

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