所得税や法人税などの所得課税や相続税などの財産課税は、納税者が申告期限までに自ら税額を確定させて申告納付する申告納税制度が採用されています。 この制度は、納税者が第一次的に納税額を確定させ、納税者からの申告がない場合やその申告が不適正な場合には、税務署長が第二次的に納税額を確定させます。 また、この制度を担保するため、追加的な税負担を求めるペナルティ制度が導入されていますが、近年、優良申告者に対する恩恵や悪質な納税者に対する不公平感に対応するための様々な改正が行われています。 本投稿では、税金のペナルティ制度について解説します。
過少申告加算税
申告期限内に提出した申告書(期限内申告)について、修正申告(納税者自らが修正する申告)または更正(税務署側で修正する行為)があった場合には、本来納める税額と当初に申告した税額の差額(増差税額)について10%の加算割合により課税されますが、次のような場合では加算割合が加重又は軽減(免除)されます。
1.自ら修正申告する場合
誤りに気付いて自ら修正申告する場合や税務署の行政指導の一環として自発的な見直しを要請されて修正申告した場合には、過少申告加算税は免除されます。
2.正当な理由がある場合
正当な理由がある場合、過少申告加算税は免除されます。 この正当な理由には、例えば税務職員の誤指導がありますが「納税者から十分な資料の提出等があったにもかかわらず誤指導により過少申告となった場合で、かつ、納税者がその指導を信じたことについてやむを得ないと認められる事情があること(国税庁の事務運営指針より抜粋)」とされています。 したがって、電話相談センターなどの税務相談は、正当な理由がある場合として認められません。 これは、税務署等が行う税務相談は、行政サービスの一環として行われるものであり、最終的な判断は納税者が行ったものとされるためです。 なお、無申告加算税についても同様の規定があります。
3.増差税額が期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える場合
過大な増差額額対するペナルティとして、期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える増差額税額は5%加重され15%の加算割合となります。
4.調査通知以後、更正・決定予知前にされた修正申告
自ら修正申告する場合には過少申告加算税は課税されないため、例えば意図して過少申告し、税務調査の通知を受けた後に修正申告することで過少申告加算税を免れることが可能となります。 これに対応するため、調査通知以後に更正・決定予知前にされた修正申告については5%の加算割合となり、期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える増差額税額は5%加重され10%の加算割合となります。 なお、無申告加算税についても同様の規定があります。
5.財産債務調書や国外財産調書の提出がある場合
財産債務調書は、所得要件(2,000万円超)と財産要件(3億円以上又は有価証券等が1億円以上)の双方の要件(令和4年の税制改正により保有資産10億円以上(所得要件無し)が追加されます。)を満たすに個人に提出義務があります。 国外財産調書は、5,000万円を超える国外財産(所得要件なし)を保有する居住者に提出義務があります。 この財産債務調書と国外財産債務調書は、調書への適切な記載を促すため、調書に記載された財産について申告漏れがあったときは、所得税と相続税の加算割合を5%軽減する措置が設けられています。他方で、調書の提出がない場合や財産の記載がない場合(記載が不十分な場合を含む。)は、所得税(相続税は相続人の責めに帰すべきではないため対象外)の過少申告加算税を5%加重する措置が設けられています。 なお、無申告加算税についても同様の規定があります。
6.国外財産に関する書類の提示又は提出がない場合
国外財産に係る所得税や相続税の調査等があり、国外財産に係る書類の提示等を求められた場合には、原則として60日以内の指定された期日までに提示等する必要があります。 期限内に提示等がない場合には「5.財産債務調書や国外財産調書の提出がある場合」の5%の軽減措置は適用されず、加重措置については、加算割合は10%に加重されます。 なお、無申告加算税についても同様の規定があります。
7.優良な電子帳簿を作成している場合
国税関係帳簿について優良な電子帳簿の要件を満たして電磁的記録による備付け及び保存を行う者について、優良な電子帳簿に記録された事項に関して生じる申告漏れについては、所得税、法人税及び消費税の過少申告加算税が5%軽減されます。ただし、申告漏れに重加算税対象がある場合には軽減規定は適用されません。
無申告加算税
申告期限後に申告書を提出した場合(期限後申告)や決定( 税務署側で税額を決定する行為) があった場合には、申告期限において無申告となるため、納付税額について15%の加算割合により課税されます。 無申告加算税は期限が遅れたことに対するペナルティですので、過少申告加算税に期限後提出によるペナルティ5%加重される制度と考えていただければ結構です。 説明が重複してしまうため、過少申告加算税と異なる点についてのみ解説します。
1.自ら期限後申告する場合
自ら期限後申告する場合、無申告加算税は5%に軽減されます。
2.法定申告期限から1か月以内にされた期限後申告等の場合
無申告加算税は提出期限から1日でも遅れた場合に課税されますが、単に申告書の提出失念など期限内申告をする意思があったとみとめられる場合でも無申告加算税が課税されてしまうことは酷であるため、 ①期限後申告が法定申告期限から1か月以内に自主的に行われ、 ②期限後申告に係る納付すべき税額の全額を法定納期限までに納付しており、 ③期限後申告書を提出した日の前日から起算して5年前までの間に、無申告加算税または重加算税を課されたことがなく、かつ、期限内申告をする意思があったと認められる場合の無申告加算税の不適用(本規定)を受けていないこと、 のすべての要件を満たすことを場合には、無申告加算税は免除されます。 なお、この規定は、関西電力が消費税約 247 億 8 千万円を法定納期限までに全額納付したが申告書の提出を失念したため、無申告加算税約 12 億 4 千万円課されたことを契機として平成18年の税制改正により設けられました。
3.納付税額が50万円を超える場合 (自主的な期限後申告を除く。)
過大な無申告税額に対するペナルティとして、50万円を超える納付税額 は5%加重され20%の加算割合となります。
4.短期間に繰り返して無申告等である場合
期限後申告等があった日前5年内に無申告加算税(自ら期限後申告する場合を除く)又は重加算税を課されたことがあるときは納付すべき税額に10%の加算割合が加重されます。
不納付加算税
源泉徴収等について、法定納期限後に納付や納税の告知(税務署から徴収の通知を受けること)があった場合には、納付税額の10%の加算割合により課税されますが、次のような場合では加算割合が軽減(免除)されます。
1.法定納付期限後の場合
法定納付期限後に納付する場合、不納付加算税は5%に軽減されます。
2.正当な理由がある場合
正当な理由がある場合、不納付加算税は免除されます。
3.法定納付期限から 1か月以内に納付された場合
不納付加算税は法定納付期限から1日でも遅れた場合に課税されます。 この場合、単に納付失念など法定期限内に納付をする意思があったとみとめられる場合でも不納付加算税が課税されてしまうことは酷であるため、 ①.法定申告期限から1か月以内に納付され、 ②.過去1年以内に納税の告知を受けたことがなく、 ③.過去1年以内に納税の告知を受けることなく法定納期限後に納付された事実がない場合 のすべての要件を満たす場合には不納付加算税は免除されます。
重加算税
申告額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装した場合に、過少申告加算税、不納付加算税に代えて35%、無申告加算税に代えて40%の加算割合により課税されます。 この仮装、隠蔽の事実としては、例えば、いわゆる二重帳簿を作成、原始記録、証ひょう書類の破棄又は隠匿、改ざん、売上の脱漏や棚卸資産からの除外などが該当します。
1.短期間に繰り返して無申告等である場合
期限後申告等があった日前5年内に無申告加算税(自ら期限後申告する場合を除く)又は重加算税を課されたことがあるときは納付すべき税額に10%の加算割合が加重されます(過少申告加算税に代わる場合45%、無申告加算税に代わる場合50%)。
2.スキャナ保存に係る仮装隠蔽がある場合
スキャナ保存に係る仮装隠蔽がある場合、重加算税が10%の加算割合が加重されます。
延滞税
税金が定められた期限までに納付されない場合には、上記の加算税に加えて、法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課税されます。
1.延滞税の割合
納期限の翌日から2月を経過する日まで①年7.3%、②特例基準割合+1%のいずれか低い割合(直近は年2.6%)、 納期限の翌日から2月を経過した日以後は①年14.6%、 ②特例基準割合+7.3%のいずれか低い割合(直近は年8.9%)
2.具体的納期限
上記の「納期限」は「法定納期限」ではなく「具体的納期限」であることに留意する必要があります。具体的納期限とは納付すべき税額の確定し、実際に納付すべき期限をいい、具体的には次の通りとなります。 ①期限内に申告された場合には法定納期 ②期限後申告又は修正申告の場合には申告書を提出した日 ③更正・決定の場合には更正通知書を発した日から1月後の日 例えば、修正申告書の提出と同時に納税を行っている場合、延滞税の加重措置はありません(この場合、法定納期限から納付日まで延滞税が課税されます。)。 延滞税の加重は、納付すべき税額の確定しているにも関わらず、納税がない場合ですので、例えば、決定通知を受け税額が確定したにも関わらず納税を行ていない場合などが該当します。
3.除算期間の特例
延滞税は、法定納期限から納付日まで延滞税が課税されます。税務調査のタイミング等で延滞税に差が生じることを避けるため、申告書の提出から1年超える期間は延滞税の期間から徐算されます。 申告書の提出日から起算されるため、期限後申告書では法定納期限から提出日までの期間は考慮されず、また、偽りその他不正行為がある場合には除算期間の特例は適用されません。
【国税庁:延滞税の計算方法】 https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai.htm
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